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活動報告

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 第三次長野市教育振興計画の教育分野を推進していくための実施計画「しなのきプランⅡ」が策定され、教育現場での実践が始まっています。計画期間は令和6年度から8年度までの3年間で、基本方針には、「新たな調査『しなのきFinder』を導入し、子どもの状態を把握し、【子どもを観る・子どもの声を聴く・子どもと対話する】ことを通して、一人一人に適した環境づくりを推進します。あわせて、非認知能力を意識した教育活動の工夫や授業改善を推進し、全ての子どもたちの【自学自習の資質能力】の伸張を支援してまいります。」と記されています。

 しなのきFinderとは、子どもの状態や非認知能力を測定するために、信州大学教育学部と長野市教育委員会が共同開発した調査です。対象児童生徒は小学校4年生から中学3年生。春と秋の2回、質問項目に回答する形で調査が実施されます。調査の結果は業者が数値化し、「学校レポート」「学級レポート」「個別レポート(学校用)」をデータにて学校へ返却します。また、家庭用の「個別レポート」も作成して児童生徒・保護者に返却します。第1回目の調査は今年度5月20日から各学校で進められています。各学校現場では、返却されたレポートを活用して児童生徒の非認知能力を高める取り組みを進める予定です。

具体的にはどのような取り組みをされるのか。また、そのための準備は、各学校で十分にされているのかなどについて質問しました。

質問の録画中継は長野市議会ホームページからご覧いただけます

 しなのきFinderの質問項目の半分は、SDQ(子どもの強さと困難さアンケート)を取り入れたものです。SDQは、子どものメンタルヘルスの問題に対応するため世界中の多くの国々で使用されている調査です。長野市では、令和3年に実施した「長野市子どもの生活に関する実態調査」にもSDQが取り入れられており、令和6年3月には、この調査結果について、再分析をしています。その報告書にある「心理的な状態」の分析では、「一番ほっとできる居場所が自分の家以外のこども」「学校で授業がわからないと感じているこども」は次の質問項目について問題性が高い傾向が現れています。「私は、よくお腹が痛くなったり、気持ちが悪くなったりする。心配事が多く、いつも不安だ。落ち込んで沈んでいたり、涙ぐんだりすることがよくある。新しい場面に直面すると不安になり、自信を無くしやすい。怖がりで、すぐにおびえたりする。たいてい一人でいる。だいたいいつも一人で遊ぶか、人と付き合うことを避ける。仲のよい友達が少なくとも一人はいる。同じくらいの年齢の子どもからは、だいたい好かれている。ほかの子どもから、いじめられたり、からかわれたりする。他の子どもたちより、大人といる方がうまくいく。他人に対して親切にするようにしている。他人の気持ちをよく考える。他の子どもたちと、よく分け合う。だれかが心を痛めていたり、落ち込んでいたり、嫌な思いをしているときなど、すすんで助ける。年下の子どもたちに対してやさしくしている。自分から進んでよくお手伝いをする。」

 また、「思いや気持ち」の分析では、「一番ほっとできる居場所が自分の家以外のこども」「学校の授業がわからないと感じているこども」は、「頑張れば報われる、自分は価値がある人間だと思う、自分は友達に好かれている、自分の将来が楽しみだ、毎日の生活が楽しい、自分のことが好きだ」と思う割合が低く、「不安に感じることがある、孤独を感じることがある」と思う割合が高くなっています。

この再分析は、第三期長野市子ども・子育て支援事業計画の策定にあたり、子どもへの支援として有効と考えられる事業を検討することを目的として行われたものですが、しなのきFinderでも、同じ設問が多く含まれていますので、この分析と同様の傾向が現れるのではないかと思います。

「個別レポート(家庭用)」を児童生徒と保護者に返却し、自己理解を深め、物事の考え方や取り組みの向上等につなげるために活用する。としていますが、具体的にはどのような内容のものが返却されるのか。市のホームページで公表されている「しなのきFinder」個別レポートイメージ図(調整中)のようなものが返却されるのか。それとも全く別のものになるのか、また、児童生徒と保護者は、返却されたレポートを、どのように活用すればよいのか、などについて質問しました。

「非認知能力」は、その土台が乳幼児期に作られると言われています。東京大学名誉教授で日本保育学会会長の汐見稔幸さんは、「まず必要なのは、無条件で愛されている、いつだって助けてくれるという基本的な信頼感と安心感を育てることです。子どもが泣いたり呼びかけたりしたらいつも温かく応える。失敗したら頭ごなしに怒らず『大丈夫だよ』と励ます。不安そうなときは寄り添う。そんな関わりを続けることで安心感や信頼が根付くと『自分はありのままでいいんだ』という自己肯定感が生まれ、『頑張ってみよう』という前向きの力になるわけです。この安心感と親に見守られてやりたいことをやる中で、非認知能力ができていきます。」と、述べておられます。しなのきFinderの監修者である岡山大学中山芳一准教授も、「非認知能力より以前に、自己肯定感(自己受容観)こそが、子どもの育つ力の原点(土台)になります。」「子どもは自分という存在が無条件で受け容れられる経験から育まれた自己肯定感(自己受容感)の上で、様々な非認知能力を獲得・向上していくことになります。」と著書に記されています。

「長野市子どもの生活に関する実態調査」の再分析と合わせて考えると、しなのきFinderで非認知能力に課題が多いとされる子どもは、非認知能力の土台となる自己肯定感が形成されるために必要な、信頼感や安心感が根付くようなおとなとのかかわりが少なかった、そうならざるを得なかった事情や背景を抱えていることが推測されます。そのような状態の子どもと保護者に、「個別レポート」を返却し、自己理解を深め、物事の考え方や取り組みの向上に活用するよう促すことには無理があると思います。むしろ自己肯定感が損なわれてしまうのではないでしょうか。

 非認知能力は、これまで知られていなかった新しい能力、特別な能力ではなく、これまでも大切だと考えられ、日常的に育まれてきたものです。子どもたちは安心感や信頼感の中で、失敗も含めて様々な経験や人とのかかわりを重ねる中で、自然と非認知能力を身に着けていきます。それを学校教育の中でもっと豊かにするためには、子どもたちの自主性を尊重し、見守ることのできる先生方の「ゆとり」が今まで以上に求められます。 

子どもたちの非認知能力を育むためには、一人ひとりの心の状態や、その背景を理解して、ていねいに関わることが大切だと考えます。市には、そのために必要な予算や人員を確保するよう求めました。

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