信州・生活者ネットワーク
ながの
まちづくりクラブ

活動報告

活動報告一覧を見る

定例会最終日は、初日に提案された議案に加えて副市長の選任議案や、請願に基づく意見書案など4議案が追加され、質疑・討論・採決をしました。

全ての議案の採決結果はこちらの長野市議会ホームページからご覧いただけます。

議案第58号「副市長の選任について」に反対しました

「産業を振興し、地域経済の立て直しを図るために、経済産業省出身の副市長を中心に新産業の創出を進めたい。経済産業省に人材派遣を求めた結果、選ばれたのが内閣官房新しい資本主義実現本部事務局企画官の松山氏。少子高齢化と社会保障関係費の増加を見据え、市の財政基盤を確かなものにするためには国との連携が必要不可欠」という市長からの議案説明がありました。

「国との太いパイプがあれば、地域経済の立て直しが図れる」というのは本当でしょうか? もちろん、国からの補助金を引っ張ってくるのが容易になるという側面はあると思います。しかし、国からの補助金というのは、国や政府の意向に沿った事業を行うためのものであり、とりわけ経済産業省の補助金は、大きな経済団体の意向が強く反映されることが予想され、真に地方経済に資するものとなるのか疑問です。また、国の補助事業を行う際には市のお金も活用することになります。長野市として産業振興のビジョンをしっかり持っていないと、大きな経済団体の要求に基づく経済産業省の事業に市のお金を投入してみたけれど、地域経済の回復にはあまり効果が見られないということになりかねません。

 6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」には、新しい資本主義を貫く思想が掲げられています。

・「市場も国家も」「官も民も」総動員で課題を解決

・課題解決を通じて新たな市場を創り、社会的課題解決と経済成長の二兎を実現

・国民の暮らしを改善し、課題解決を通じて一人ひとりの国民の持続的な幸福を実現

そのために、スキルアップ人材育成、貯蓄から投資への誘導、科学技術・イノベーションへの重点的投資、スタートアップの起業加速とオープンイノベーションの推進、GX(グリーン・トランスフォーメーション)とDX(デジタル・トランスフォーメーション)へ重点投資をして、成長と分配の好循環を生み出す計画です。つまり、法改正と先端技術への投資によって、経済を成長させる計画のようです。具体例としては、法制度の見直しによって競争力や成長力のある法人を増やすことと、暮らしや経済活動の都市部への一極集中を地方へ分散させるためのデジタル田園都市国家の整備などが示されています。市長は、新しい資本主義に向けた施策を長野市で実現することを松山氏に期待しているようです。

「少子高齢化と社会保障関係費の増加を見据え、財政基盤を確かなものにするには国との連携が必要不可欠」という市長の説明はどうでしょうか。どの地方自治体も財政の健全性を示す指標を毎年公表します。国が示す健全化判断比率の基準の範囲においては、長野市は健全財政を維持し続けています。長野市の社会保障関連費はどうなっているのでしょうか。社会保障関連費の主なものは児童手当や生活保護、国民健康保険や介護保険、後期高齢者医療です。これらは、国が基準を定めて、どの自治体に住んでいても等しく保障するものです。独自のやりくりで医療費助成などを手厚くする自治体はあっても、基準を下げて保障を手薄にすることはできません。自治体の財政力に差があっても全国で一定の保障がなされるように、国は自治体ごとに需要額を算定して、不足がある自治体には交付税を配分しています。

 ちなみに、財政状況資料を見ると、類似の自治体に比べて長野市は扶助費(社会保障制度の一環で給付などの福祉サービスを提供するための経費)に予算を割く割合が少ないことが分かります(令和2年度は60団体中少ない方から2番目)。じつは、長野市は公債費(市債の元金や利子の支払い経費)や、補助金等(市から他の公共団体や民間に交付される負担金や補助金)への予算配分が多く、それに加えて、予算に占める割合が大きい普通建設事業費のうち、特に新規の建設事業が類似の自治体に比べて多いのが特徴です。

 住民のニーズに応じて柔軟に対応できる財政運営が市に求められます。財政が硬直化する要因は、経常的に経費が必要になる公債費や人件費の増加です。長野市は冬季五輪で多額の市債を発行して競技施設を建設。その返済は2017年まで続きました。完済を待っていたかのように第一庁舎・芸術館、Uスタジアム、サンマリーンながの等の大規模な建設事業を続け、多額の市債発行を繰り返しました。更に東日本台風災害復旧にかかる市債の返済も本格化する中、老朽化施設整備のための市債も避けられません。長野市財政推計によると、現在の市債残高は1,544億円。3年後の令和7年には、140億円以上増加して1,673億円になると見込まれています。国から後年に交付税措置される有利な起債であっても、予算に占める公債費の比率が上がれば、柔軟で安定した財政基盤の確立は遠ざかります。想定できない災害が頻発し、人口減少が深刻化する今日にあっては、より負担がのしかかることは想像に難くありません。

 少子高齢化を見据えた財政基盤の確立には、大規模な建設事業の返済が終わるまでは、新規の建設事業を抑えることが必須です。市民が身近に利用する既存の施設に適度な投資をして長く活用すると同時に、社会情勢によって影響を受けやすい大規模施設の在り方を長野市の身の丈に合わせていくことが急務です。住民と協働で公共施設の管理計画を見直したり、財政の現状をこれまで以上に広く市民と共有して堅実な財政運営に切り替えるなど、国との特別な連携を求めなくとも、財政基盤の確立のために長野市が取り組める手法はいくつもあると思います。

 6月定例会個人質問では、経済的に厳しいために家庭での養育が困難で発育に問題を抱えている子ども、保護者が精神疾患を抱えているために家計の維持がままならない家庭、少なくないヤングケアラーの存在を取り上げました。非常に厳しい状況で暮らす家庭に、必要な支援が届けられていない現実があります。今この瞬間にも、安心して育ち、自由に遊び、学ぶという必要不可欠な権利を奪われている子どもがいます。

 長野市の貴重なお金と人材をどう活用すれば、みんなが安心して暮らせる、暮らしの豊かさを感じられる長野市につながるのか、それは政府が掲げる「新しい資本主義」を長野市で積極的に展開することではないと、私は考えます。

以上の理由で議案第58号副市長の選任について反対しました。

タグ: , ,

ページのトップへ